元素選択指針に基づく機能性酸化物ガラスの探索

窓ガラス、通信用光ファイバーに代表されるガラス物質・材料や、これらを使ったフォトニクスデバイスは、我々の暮らし中で欠かせない役割を担っています。ところが、汎用的に使われているガラス物質・材料においても、未だに解決しない課題が存在しています。

 

例えば、光学レンズに用いられる硝材には、屈折率を大きくする目的から鉛を高濃度に含んでいます。鉛は元素、イオンに関係なく毒性を有していることから、鉛を含有した製品の使用、製造、廃棄が国内・海外の環境規制によって厳しく制限されています。その方策は、鉛を含有しないで鉛と同等の機能性を有する酸化物ガラスを新たに創成することにありますが、数ある元素の中から酸化物ガラスに用いる元素を選択することは容易ではありません。

 

当研究室では、これまで鉛ガラスに依存していた高屈折性、低光弾性に関して、物理・化学的な観点から大いに挑戦し甲斐があるが、現実的に困難と見られていた物質・材料創成に取り組んできました。これまでに将来の実用化を考えながら、有害元素を含まず非常に小さい光弾性を呈する酸化物ガラス群を提案しています。

 

低光弾性,低ヴェルデ定数から成る光学レンズ。レンズに加わる応力・熱・外部磁場に影響されずに,直線偏光が保持される様子(右)をあらわしています。

 

低複屈折性(低光弾性)レンズ・フィルターが配置された偏光プロジェクター内の光学系液晶を通して制御された直線偏光は,レンズ・フィルターを介してRed・Green・Blueに分けられ,再び白色光として出射します。光源からの熱,レンズホルダーなどの外部刺激(熱・応力)が発生する状況下で,低複屈折性(低光弾性)ガラスをこれらの素子に用いると発色性・演色性が格段に向上します。

 

直線偏光を保持する鉛フリー酸化物ガラスは、液晶プロジェクター内の光学系(レンズ・フィルター)に実装することができます。従来から、鉛を高濃度に含むケイ酸塩ガラスでレンズ・フィルター材料として用いられています。

有害元素を含まない非常に小さい光弾性定数を有するリン酸塩ガラス

窓ガラスの例を上げるまでもなく、酸化物ガラスは無色透明であることが当たり前ですが、重金属を含む、金属酸化物を多量に含んだ酸化物ガラス組成では当たり前ではありません。特に、光弾性定数が非常に小さい酸化物ガラスを創成するためには、可視光域で無色透明であることを両立することが、実用化の可能性のある酸化物ガラスの重要な要素になります。

 

リン酸塩ガラスでは、リン酸ネットワークの特徴から、機能性発現の源である金属酸化物を高濃度に含有しながら、可視光域で呈色しない物質・材料を創出することができます。

 

鉛フリー・ゼロ光弾性・透明リン酸塩ガラス

 

 

 

鉛フリー電流センサーのためのゼロ光弾性ガラスから成るリン酸塩光ファイバー(中央、右)を試作しています。この光ファイバーは、曲げ応力を加えても直線偏光は角度を変えることなく,導波路内を伝搬します。


[関連論文]
J. Appl. Phys., 122, 0851021 (2017).
J. Non-Cryst. Solids, 498, 173 (2018).
Jpn. J. Appl. Phys. Rapid Commun., 57, 0803101 (2018).
Int. J. Appl. Glass Sci., 11, 27 (2019).
J. Non-Cryst. Solids, 513, 44 (2019).
Phys. Status Solidi (b), 257, 20001461 (2020).


ケイ酸塩ガラスで実現する無色透明・ゼロ光弾性特性

非常に小さい光弾性定数と,PbOに匹敵する大きなヴェルデ定数を有したBi2O3高濃度含有ケイ酸塩ガラスの光ファイバー化について検討しています。同ガラスの2光子吸収係数もPbOを高濃度に含むケイ酸塩ガラスと同程度です。当研究室は、鉛フリーかつ無色透明なゼロ光弾性ガラスをケイ酸塩、ホウ酸塩およびリン酸塩ガラスで実現してきたパイオニアです。

 

ゼロ光弾性ケイ酸塩ガラスの概観。ヘビーメタルに特有の着色がありますが,いずれも非常に小さい光弾性定数を有したガラスです。

 

2元系SnO-SiO2ガラス。SnOの含有量に依存して,ガラスが黄〜橙色を呈します。

 

2元系SnO-SiO2ガラスは,組成の一部をフッ素で置換すると,光弾性定数は非常に小さい値を保ちつつ、ワイド光学ギャップ(無色透明)が実現します。

 

Bi2O3はPbOのような毒性はありませんが、ケイ酸塩ガラスに溶解すると赤橙色にガラスが着色します。しかしながら、このままでは紫外〜可視光域で光学素子として使用できません。光電子分光、X線吸収分光を用いて、Bi2O3を高濃度に含むケイ酸塩、ホウ酸塩およびリン酸塩ガラスの着色の原因を明らかにしました。

 

ワイド光学ギャップ(>3.1 eV)Bi2O3酸化物ガラスは、ゼロ光弾性特性もあわせて有しています。特に、着色しないガラスは、PbOを大量に含む酸化物ガラスと機能性は同等以上ですから、従来のPbOガラスに代わる物質・材料として利用することができます。


[関連論文]
Opt. Mater. Express, 7, 760 (2017).
J. Non-Cryst. Solids, 521, 1195261 (2019).
Opt. Mater., 96, 1093551 (2019).
Appl. Phys. Express, 12, 1020101 (2019).
J. Non-Cryst. Solids, 527, 1197061 (2020).
J. Non-Cryst. Solids, 560, 12072001 (2021).


ユビキタス元素選択指針に基づく電子伝導酸化物半導体ガラスの探索

透明な酸化物ガラスは従来より、光は透すが電気は通さない絶縁体と考えられてきました。

 

私たちは、毒性元素を一切含まない組成の酸化物ガラスで、電気が流れることを示しました。
いわゆるユビキタス元素から成る電子伝導(n型)酸化物ガラスの発見です。
その後、電子ドーピングをおこなって、室温で電子伝導酸化物ガラスの発見までいたりました。

 

さらに、透過型電子顕微鏡を用いて、X線回折測定では検出できない~20 nmの微結晶が存在することを
突き止めて、これが電子ドーピングがなされた構造的な起源であることを証明しました。
現在は、縮退型の電子伝導を示す酸化物ガラスまで見いだしています。

未利用有価元素の有効利用

ハイドロキシアパタイト(HAp)の乾式処理によって,結晶中に含まれるリンを効率よく回収・リサイクルするためのプロセスを調べています。加熱やパルスレーザー照射によって,動物の骨中HApからTCPを作り出すことができます。

 

ハイドロキシアパタイト(HAp,左),およびリン酸三カルシウム(TCP,右)結晶構造

 



J. Ceram. Soc. Jpn.誌の表紙に採用されました(2019年3月号)。

 

フッ化カルシウム(左),ハイドロキシアパタイト(右),フルオロアパタイト結晶(下)構造

 

還元スラグに含まれるフッ素が,アパタイトを加えて高温で焼結することによってフルオロアパタイトとしてスラグ中に固定化されます。アパタイト源は動物の骨,カルシウムリン酸塩ガラスでも代用できるので,高価なリン酸塩原料を使用せずに,リサイクル材を用いてフッ素の固定化ができます。


[関連論文]
J. Ceram. Soc. Jpn., 127, 131 (2019). [3月号の表紙に採用されました]
Mater. Transactions, 61, 1679 (2020).


 

 

 

 

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